リーティアの隙あらば音楽語り

サブカル系音楽を中心に自分が気に入ったものを布教するだけのブログです

そこには「声優ソングのあるべき姿」があった ~DIALOGUE+「DREAMY-LOGUE」レビュー~

まず最初にお知らせです。

緊急事態宣言下ですが弊ブログは自粛しません!!!!!!!

と、いうわけでいつもにまして今月はブログをたくさん更新していきたいですね。

 

でですね、待ちに待っていた新譜がこの度ついに出ました。

DIALOGUE+ 「DREAMY-LOGUE」

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田淵智也全曲プロデュース、作詞ゲストに三森すずこ津野米咲(赤い公園)、大胡田なつき(パスピエ)を迎え、編曲には堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)、佐藤純一(fhana)、中山真斗、eba、園田健太郎広川恵一(敬称略)というアニソン界で第一線を走るクリエイターたちを取り揃えた全6曲ということで、発売前からコアな音楽マニアの間で大注目を集めていたわけですが...まあ一言で感想を言いますか。

 

すごいアルバムだった。

 

何がどうすごかったかっていう話をするにあたって、そもそもDIALOGUE+という声優ユニットがどこを目的地にしているのか、そして田淵智也がこのプロジェクトを通して何を表現しようとしているのか、まずそれについての考察をここに書いていこうかなって思います。

 

田淵智也と言えば、UNISON SQUARE GARDENの核であると同時に言わずと知れた10年代アニソンシーンの中心人物でもあります。さらに畑亜貴らとプロデュースチーム「Q-MHz」での活動など、もう何ら不自由はないほどにアニソン業界での活動をやれているはずです。そんな彼が今さらに新しいプロジェクトを持つことにどんな意味を持つのか。それについていくつか思いつく点を挙げてみようかなと。

 

・新たなアニソンの形への挑戦

「売れるアニソン」を書くだけでは足りない。アニソンが音楽業界のフロンティアであり続けるためには新たな形に挑む必要がある、ということがまずあると思います。そういった思考の根底には元々田淵氏がバンド畑の人間であるということもあり、ここからさらに進化をしていかないとバンドのタイアップに居場所を奪われるのではないか。そういう考えももしかしたらあったんじゃないかなって気がします。実際に彼がMCを務めるイベント「アニソン派!」において女王蜂「火炎」を絶賛していたことなどもありますし。さらに言ってしまえば弊ブログでは何度も言及してますけどVTuberはじめインターネットの音楽はアニソン以上のハイペースで進化をしており、それもまた大きな後押しになったのかなとも思います。

しかしながら楽曲提供という形でそれをやるのはなかなか困難じゃないかと。もちろん田中秀和氏の「Share the light」のような前衛的なものもありますが。そこで全く新しいユニットを作り、演者とクリエイターが一体となって作品を作っていく場にしようというのがDIALOGUE+なんじゃないかなって個人的には思うんですよね。新たなアニソンの形の実験を織り込みつつ、それをアーティストの世界観に還元していく。ユニットというよりかはプロジェクトというべきかなっていう捉え方をしています。いわば「アニソンの実験場」という意味合いが強いのかな、と。

 

・「声優」が「歌を歌う」魅力の再認識

00年代、10年代ともはや声優が歌を歌うことが当たり前となった今更何だ?と思われるかもしれませんが、ただ歌が上手ければいいっていうものではないんですよね、声優の歌は。その点について田淵氏もコメントをされています。

 声優が持つ声の良さをどう生かすか。その点においてもDIALOGUE+は様々な実験的なアプローチをしていて、今回のミニアルバムもそれが非常によく出ていました。やっぱり声優ってキャラクターに声を吹き込むのが生業なので、歌を歌うにしても何かしらキャラクター性が見えてくるというのが非常に大事な要素の一つなんじゃないかと思うんですね。特にDIALOGUE+は8人という大人数で構成されるユニットなので、それぞれのキャラクターをどう生かしていくかという点で非常に工夫がなされている印象を受けました。DIALOGUE+の試みを通して、声優の歌の魅力をもう一度掘り下げてもらおう。そう言った意図は少なからずあるでしょう。

 

 

前置きだけで1842字。これはなかなかなボリュームになりそうですね...。

さてさて、ここからは全6曲、それぞれの感想を書いていきましょうかね...。

 

 

全作曲:田淵智也 特記のないものは作詞:田淵智也

 

M1. 大冒険をよろしく 編曲:堀江晶太

田淵智也×堀江晶太といえばあの「Rising Hope」に始まり名曲を生み出し続けているタッグですが、またとんでもないものを生み出してしまったな、と。まさにタイトルの通り冒険の幕開けを感じさせてくれます。それはDIALOGUE+だけでなく、プロデューサーの田淵氏自身の冒険ともとることができそうです。この曲の調はFメジャーですけど、イントロは同主短調のFマイナーから入るんですね。ここでまずもう不意打ちを食らっていく。そこからアレンジはブラスセクションを取り入れながらバンドサウンドの強みを最大限生かす堀江節全開って感じですね。ベースを弾いているのは田淵氏ですがベースラインがライブ中の彼かなってくらいに動く動く。特に2サビ前の高速スラップ。何あれ。これを名だたるスタジオミュージシャンに混じってやってるので本当に彼のベースの実力は相当なものですね。次に歌詞。印象的なフレーズが1Bの「パンドラの箱をのっくして あやふやな未来を取り出して」ですね。災厄の象徴である「パンドラの箱」とプラスのイメージを持つ「未来」という言葉の対比。どんな困難も乗り越えて強くなっていこうという意気込みを示すこれ以上の言葉があっていいのか???そしてボーカルディレクションがすごい。要所でガヤを入れてみたり、語りかけるような歌い方をさせてみたり。まさに声優が歌うからこその魅力ガン詰めです。そして譜割。LiSAにもこれ渡すかってくらいの相当な鬼畜なメロディですよこれ。田淵氏はこのメンバー8人の実力を期待値含め絶対的に信頼をしているな、と。じゃないとこれ書けないですよ。最後の高音畳み掛けとか圧巻ですね。結論を言うともう大満足の仕上がりです。ボーカル、歌詞、メロディ、楽器、全部それぞれ意識して聴いてもらいたいですね。

この曲については「堀江晶太・kemu速報」さんが12000字という超濃厚レビューを既になさっているのでぜひお読みください。

horienews.com

 

 

M2. 好きだよ、好き。 編曲:佐藤純一(fhana)

1曲目の爽快なバンドサウンドとは打って変わって王道アイドルソング的アプローチを組み込んだ、頑張る人を後押しするような曲です。それは第一印象。この曲には、8人それぞれが支え合ってずっと歩んでいってほしいという田淵氏の思いが込められています。

「君が僕を嫌いになるときは 僕が夢を捨ててしまう時だ だからそんな日が来ないように 今を歌い続けよう」

「嬉しい時は話をするよ 悲しい時も話をするよ 君がそばにいてほしいから」

自身のバンドの曲からはなかなか考えられないフレーズに不意を突かれたとともに、めちゃくちゃ感銘を受けてしまった...。1人でも欠けたらこのユニットは成立しないと彼は言ったし、メンバー全員がそう感じている。この曲を聴いて、もっとこのアーティストの未来を見ていきたいなとそう感じさせてくれました。「好きだよ、好き。」というタイトルの意味は、「夢を持ち続ける」ということなんですね。歌詞考察についてはこちらの記事がより深く踏み込んだことを書かれているので是非お読みください。

www.ongakunojouhou.com

 で、アレンジなんですけど、ストリングスの編曲がとにかく素晴らしい。2AのVn→Vcの旋律の受け渡しとかめちゃくちゃ綺麗だし、間奏なんかはfhanaの楽曲にも通じるものがあって、もう、佐藤純一やってくれたな、、、って感じです。演奏はfhana「星をあつめて」に引き続いて真部裕ストリングスが担当しています。この曲もぜひ歌詞、アレンジそれぞれ意識してもらって魅力を感じてもらえればなって思います。

 

M3. トーク!トーク!トーク! 作詞:大胡田なつき(パスピエ) 編曲:中山真斗

トーク!トーク!トーク!

トーク!トーク!トーク!

  • DIALOGUE+
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

また直前の曲からは打って変わって遊び心が溢れた曲ですね。またすごくボーカルディレクションが違っていて、大胡田なつきさんが作詞してるだけあってパスピエに近くなってるようないんしょうがするんですけどこれは先入観なのか...?そしてすごいのが中山真斗さんのアレンジですよ。どうやらトラックダウン当日になるまでアレンジ音源が届かなかったとかなんとか...。具体音の使い方がすごくうまい。具体音っていうとアンビエントとかエレクトロニカ的なものに使うやつだと思ってしまいがちですけど、元々ポップな曲にここまで効果的に使われているのは流石にうなってしまいますね。途中のラップ部分(なのか?)のリリックがすごく良くて流石大胡田なつきさんだなぁとかんじたりだとか、メンバーそれぞれ歌い方が違っていたりとか、すごく聴いていて面白かったです。いやこれはほんとに編曲が天才です。中山真斗さんありがとう。

 

M4. Domestic Force!! 作詞:津野米咲(赤い公園) 編曲:eba

Domestic Force!!

Domestic Force!!

  • DIALOGUE+
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

今回衝撃的だった曲No.1。やばすぎるだろこれ。

Twitterでは欅坂っぽいって散々言われてましたけどメロディ部分は個人的には小野貴光(Time Files. Inc)氏にインスピレーションを受けているんじゃないかと感じた曲でした。で、ヤバいところ順番に話していきますか。

まず展開がEDM。完全にビルドアップ→ドロップの流れになってる。まさかバリバリのバンド畑の田淵がこんな曲を書くとはって感じ。ひっくり返ってます。でもって、こういう曲を書こうと思ったきっかけが本人曰く女王蜂「火炎」らしいですね。でもって次がこのアレンジをこちらもロックが本業のebaさんが担当しているということ。ebaさんといえば「This game」だったりこの間はCYNHN「水生」でバチバチのロックチューンを鳴らしてくれていたんですけど、それと同じ人がアレンジをしているって普通に信じられないでしょう。かなり本格的なエレクトロサウンドの仕上がりなんですけど、アクセントにギターを入れてくる辺りは本当に流石でした。そしてそれ以上に衝撃的だったのが声の使い分けなんですよ。声優楽曲においてボーカルディレクションがどれだけ大きな意味を持っているか。そしてこの楽曲でそれを担当したのはあの草野華余子氏。まず最初の台詞部分なんかはさすが声優と思わせてくれる演技でした。声優楽曲もっと積極的にこういうことしてくれてもいいんじゃない?あとビルドアップの部分。1番と2番で全くと言っていいほどに同じメロディでも歌い方が違っていてびっくりしましたね。ほんとに「声優は圧倒的に声がいい」ことをこの曲を聴いてもらえればわかるんじゃないかと思います。本当にすごかった。

 

M5. パジャマdeパーティー 作詞:三森すずこ 編曲:園田健太郎

パジャマdeパーティー

パジャマdeパーティー

  • DIALOGUE+
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 まず歌詞なんですけど、三森すずこさんの作詞センスほんとにすごいなって思いました。別に過小評価してたわけではないんですけど。「笑い声が月まで飛んでいく」ってフレーズほんとによくないですか?曲の向こうで繰り広げられているであろうガールズトークの光景が目の前に出てくるようですよ。で、園田さんの編曲もめちゃくちゃいい。自分のTwitterでライオンに1匹だけシマウマが混ざってるだの言ってたんですけど、どこがやねん!!!全体通して弾むようなピアノの音が本当にいいです。コード進行は特にAメロがすごく良くて、おおそう来るんだ!っていう感じの動きをめっちゃしてくれます。Domestic Foce!!のような語り所がある曲ではあまりないかもしれないですが僕の語彙力がないだけですごめんなさい、あれがすごい聴くのにカロリーいろんな意味で使う曲だったのでこの曲順はとてもいいと思いました、すごくこちらも聴いてて楽しい気分になれる歌だなって思いました。

 

M6. ぼくらは素敵だ 編曲:広川恵一

ぼくらは素敵だ

ぼくらは素敵だ

  • DIALOGUE+
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

コンセプト的には「好きだよ、好き。」と似ていて、DIALOGUE+のこれからの展望を描いた1曲かなと思います。3~5曲目がゲスト作詞曲だったのもありますが、ここに来てまた素直な田淵節が戻ってきたなって感じです。歌詞に関しては「1人でも欠けちゃったら嫌だから心を繋げ」とか、ユニゾンでは絶対聴けないじゃないですか。本当に、田淵氏がどれだけメンバーを認めて応援していることか。。。「ぼくらは素敵だ」っていうタイトルの時点でもう勝ち。リスナーはプロデューサーとメンバーの強固な信頼関係に平伏するしかない。で、編曲がMONACAから「はじめてのかくめい!」の田中秀和氏に続き、今回は広川恵一氏です。CRIMSON LOVERS以来僕の広川氏のイメージは変態マスロックだったので今回また違う一面を見れたなって印象です。ストリングスに関してもここまで一級品のアレンジが出来るのは改めてこの人の底知れない実力を見せつけられたなって感じですね。ただやっぱりコード進行は変態ですけどね。メロディ普通に素直なのにそんなコードつけるの!?って感じですよ。アレンジが返ってきたときの田淵氏の反応どんなだったんだろうw でもって間奏の謎転調ですよ。A♭のモーダルインターチェンジかな?とか思ったらB♭行ってそのままGに戻るとかいう謎の挙動をするんですが...それでもすごいのはあれだけテクニカルな編曲でありながら全体を通して聴けばちゃんとキャッチーなんですよ。まっすぐにメッセージが伝わってくる。この広川氏は本当にすごい仕事をしたなって思いましたね。最後の曲にふさわしくも、さらに続きがあるようにも感じさせてくれる。最高の曲です。

 

 

最初に「声優が歌を歌う魅力の再認識」ってことを書いたんですけど、このアルバム1枚通して僕自身がそれをさせられたなぁ、と。全6曲、すごくわかりやすい形でそれを表現してくれたんですよ。声優ソングのボーカルディレクションの大切さっていう点では諸星すみれさんのデビューアルバムの白戸佑輔氏の曲とHoneyWorksの曲を聴き比べた時に全く歌い方を変えていてそこですごく実感したんですけど、これもちゃんと歌い方にキャラクター性が存在していてそこが本当によかった。

あとは世界観の確立と多彩なバリエーションの両立ですね。田中秀和氏プロデュースの鹿乃「yuanfen」、kz氏プロデュースのにじさんじSMASH the PAINT!!」ときて、田淵氏はこのアルバムでどんな景色を見せてくれるんだろうとすごくワクワクしていたんですけど、もう完全に期待以上です。一流ヒットメーカーは同時に革命家でもある必要があるなって思います。ずっと同じようなことをやっていては時代に取り残される。そうした中で、声優とクリエイターが一体となって創作をしていくこのユニットは、僕らリスナーが考えている以上の可能性を秘めているのかもしれません。そんなことを、この作品は思わせてくれました。

 

ここまで6600文字。1曲のために12000字書いた堀江速報管理人の足元にも及びませんが、これからもっと物書きとして精進していけたらいいかなと思います。以上、今回の記事でした。広がれログっ子の輪!!!!!