リーティアの隙あらば音楽語り

サブカル系音楽を中心に自分が気に入ったものを布教するだけのブログです

「音楽は物語である」ということ。 ~VTuberコンピレーションアルバム「ADVENTUNE」を聴いて~

新年度になりましたね。。。

 

僕の大学は5月まで授業開始が延期になりましたが...。今年1年間はまともに何もできないんじゃないかって気がしてますね。まあしょうがないね。

さてさて今回の記事を始めていきましょう。

本日4/3、金曜日なんですが......なぜか大量に新曲が出てきた。なんで?

そしてそして......その中でも一際ヤバかったアルバムがありまして、そのアルバムのことはフォロワーさんの紹介で知ることができたのでめちゃくちゃ感謝してます。Twitter情報網やばすぎ......

 

「ADVENTUNE」

 

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というアルバムなんですが、まず一言で言うと、バーチャルシンガーのコンピレーションアルバムです。そしてこのタイトル(ADVENTURE+TUNE)が示すように、RPGの世界の物語を音楽で表現するというコンセプトのもとで作られたアルバムです。そしてその収録曲10曲のひとつひとつのがそれぞれコンセプトを持っており、それらの集合体として最終的にアルバムのストーリーが構成されているというものです。

 

曲の感想...の前に、このアルバムの意義について自分なりに書きたいなって思います。

僕が考えるいいアルバムっていうのは「1枚通して聴いた時にそれが持つストーリー性、アーティストが伝えたい音楽の物語がしっかりと表現されているもの」だと思っておりまして。1曲1曲が強ければいいとかそういう話ではないんですよね。むしろ全体として世界観の統制が取れている方が作品としての価値は高いかなっていうのが個人的な考えです。そういう意味だと僕は完全なオリジナルアルバムが好きです。それは置いといて。

このアルバムは、より聴く人に音楽が持つストーリー性を強く感じてもらう、という狙いがあるんじゃないかと思います。コンピレーションアルバムだとバラバラの音楽を包装するものみたいな感じのものが多い気がしますが、この場合アルバムが既に物語を持っており、それに沿うように曲を作っていく。1曲でも欠けたら完成しない。その点がこのアルバムの最大の魅力だと思いました。

 

さて、曲の感想を書いていきましょう。

 

M1. Close to my heart / ミディ [女神]

 1曲目は作曲系VTuber・ミディによる「女神」をコンセプトとして書かれた曲です。

ミディさんは作風的にはFuture Bassを得意としているのですが、この曲も本格的なサウンドを鳴らしてくれています。そしてこの曲で女神は何を伝えようとしているのか。これ考察がすごく難しいんですけど、女神はこのRPGの主人公に語り掛けているんじゃないかと思いました。

「ねえいつも何を考えてるの 君だけの言葉で聴かせてよ」

というフレーズは、主人公へと同時に聴き手に向けられたメッセージでもあり、ここから壮大な冒険が始まっていくことを予感させてくれます。

 

M2. heterodoxy / memex [魔女]

memexはクリエイター・ぴぼを中心として結成されたオルタナティブ系アーティスト集団です。「魔女」のコンセプトが示すように、半音階や変拍子を巧みに利用したどこか怪しげな旋律、バンドサウンドとFuture Bassが混在する曲構成など、非常に前衛的な構成の曲になっています。この曲のストーリーは「人の役に立ちたかった魔女が強大な力を持ったせいで疎まれ、最終的に人々のために消える」というもの。ボーカル・アランさんの訴えかけるような力強い歌声によって一段と説得力を持つ仕上がりになっています。これは個人的な性癖ですが最後IVm△7で終わるのがめちゃくちゃ好き。

 

M3. VILLAGER / キツネDJ [村人]

この曲のコンセプトは「村人」で、非日常に巻き込まれて崩れ去る平穏や引き裂かれた友情を歌っています。ダンスミュージックでありながらもどこか切なさを感じさせるトラックメイキングがすごく器用だなって思いましたね。歌詞もちゃんと世界観を崩すことなく韻によるリズム感を生み出しています。あと特筆すべきは民族音楽調なドロップですね。盛り上がりを作りながらもここでもちゃんと世界観を保っている。DJキツネさんのことは初めて知ったんですけど相当な実力者だなって思いました。

 

M4. Level UP / 八月二雪 [剣士]

3曲目まではエレクトロが主体でしたが、ここでバンドサウンドの楽曲が登場してきます。コンセプトは「剣士」ですが、「Level UP」という一見ポジティブなタイトルとは裏腹に、敵を倒して経験値を稼ぐ、という行為に対して葛藤や辛さを抱かなくなってしまった、という心理を歌っています。ゲームをプレイするだけなら敵を倒すというのは当たり前のことだけど、画面の向こうのキャラクターはそんな葛藤を抱えながら戦ったりしているのかなって思うと少しの切なさがあります。普通なら持たないような視点を感じさせてくれる曲だと思いました。

 

M5. Lunatic Mountains / あくまのゴート [遊び人]

これまた新たなジャンルの歌ですね。ブラスセクションなどが入った陽気な雰囲気に仕上がってます。コンセプトは「遊び人」。俺はもっとやれる、まだ本気出してないだけ...と言っているうちに人生棒に振って終わっていく浮浪人の物語です。反面教師かな?音楽的にはレゲエのように言葉を詰め込む譜割だったり、サビがクリシェになっていたりと面白い部分が多いです。クソみたいな遊び人の一生を笑ってやりましょう。え、笑えないって?

 

M6. こだまのうた / 羽子田チカ [踊り子]

コンセプトは「踊り子」ですが、もう言わずもがなですね。イントロからそれ以外ないと言わんばかりのケルト調の楽曲です。ほんとにジャンルが様々で飽きないですね。ストーリーは「孤高のダンサーの孤独」。孤独でありながら誰かに届くよう踊り続ける。「人はみな聴こえぬ この高鳴りが」という歌詞が最後に「人はみな聴こえる こだまのうたが」という風に変わるのがいいですね。そして歌声の質感が曲調にこれ以上ないほど合ってるなと。流石の実力だと思いました。

 

M7. Don't Care / YACA IN DA HOUSE [神官]

「神官」というコンセプトなので荘厳なものが来るのか...と思いきやR&Bが来ました。YACAさんの音楽そのまんまって感じです。最前線で戦う事がない立場と、誰かを守りたいという気持ちのジレンマがこの歌のコンセプトです。でも不思議とネガティブな印象はあまり受けないですね。歌詞はかなりリズム感を重視していて面白い感じなんですけど不思議と何を言いたいかっていうのはわかるんですよね。このアルバムの中ではかなり変化球な曲なんじゃないかと思います。 

 

M8. Bardo / エルセとさめのぽき [吟遊詩人]

エルセとさめのぽきは以前のVTuber紹介記事の中で言及させてもらったんですが、この曲はそれまでのイメージとは全く異なっていてある意味で衝撃でした。エルぽきがこんな怪しげな曲を作ることは今までなかったので。エルぽきリスナーとして少し偏見的な見方になってしまうんですが、深海の吟遊詩人として今まで歌ってこなかった闇の部分を解放したような印象を受けました。この物語の吟遊詩人と自らの共通項を探っているような曲、というか。兎にも角にも彼女達の新しい可能性を垣間見ることができたので、この曲に関しては素晴らしいの一言です。

 

M9. オメガフォース / ミソシタ [黒魔導士]

ダークな雰囲気を纏ったラップですね。コンセプトは「黒魔導士」ということで、世界の転覆を企むような歌なんですけど、不気味に現代社会に通じるような表現があるんですよね。RPGの世界観の中にある曲とは思えないほどシンパシーを感じる。歌詞だけでなくトラックメイキングもすごくいいです。特に秀逸なのはPADの使い方。全体的に突き刺すような曲調と霧がかかったようなPADの音色のコントラストが絶妙だなって感じます。2番で民族音楽調の弦フレーズを入れてみたり、ユニークなアレンジだなって思います。歌詞を見ながらと見ずに、両方の聴き方をしたら面白い気がしますね。

 

M10. 勇者のくせに / ぼっちぼろまる [勇者]

「勇者」って言われて僕らが思い浮かべるのは、優しくて、勇敢で、強い人だと思うんですよ。でもここで歌われている勇者はその逆。自分を偽善者と呼び、勇気なんて必要ない、それほどの価値もないと歌っている。その発想は僕らの固い頭では絶対に生まれることがないもので、歌いだしを最初に聴いた時に本当に衝撃を受けました。生まれて初めてBUMP OF CHICKENを聴いた時のそれに似たような。勇者なんていうのはそんな大層な存在ではないのかもしれない。いや、逆にそんな大層な人間じゃなくても「勇者」になれるんだ、そんなことを伝えたかったのかもしれない。これを聴いてどう感じるか、いろいろな考えがあると思います。あなたは何を思うでしょうか。

 

 

以上、全10曲が収録されたアルバムです。

僕は音楽を聴くときは「メロディがすごい」「アレンジがすごい」というのが第一印象になりがちなので、歌詞だとか、そこに存在する物語とかってなかなかじっくり考察することってないんですよね。それをする機会として、このブログはすごく自分のためになるなって思いながら書いてます。今回紹介した曲も、こうして書きながら「ああ、これはこういうことを歌っていたんだ」っていう新たな発見がいくつもありました。言語化しないと見えてこないことっていっぱいあるんですよね。特にVTuberは「キャラクター」なので、音楽をやるにしても設定とか物語ってものがすごく大きな意味を帯びてくるなって思うんですね。そこについてじっくり考察するっていうのはリスナーとしてはとても重要なことだと思います。

まあとにかく何が言いたいかと言えば、このアルバムがやばいってことと、VTuberは音楽コンテンツとしての可能性をまだまだ広げていけるってことです。前のにじさんじの感想の際も言及したんですけど、まだまだアンダーグラウンドなコンテンツであるからこそ実験的な取り組みをしていくことができる。いわば音楽の新たな可能性を模索している最中なんですね。ゆくゆくこれがメジャーになってきたとき、どんな輝きと衝撃を見せてくれるのか、非常に楽しみでなりません。この先も見守っていきたいなって思ってます。

これを読んで少しでも興味を持ってくれた方、サブスクにあるので検索してダウンロードしてください!そして気に入ったらぜひ布教してください!よろしくお願いします!以上、今回の記事でした。次回は多分来週発売のDIALOGUE+の新譜について書きます。お楽しみにしててください!